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ダンサー・イン・ザ・ダーク [映画関連]

2000年 ラース・フォン・トリアー監督

実はトリアー監督とは相性がいい。よく言われるストーリィの救いのなさによる不快感をあまり感じないのだ。しかもなぜか飽きない。「ドッグヴィル」も「あーはいはい、そうですね」という感想ではあったのだが、その後何回見ても全く退屈せず演出や役者の芝居やキッドマンのセクシーさを楽しめる。

というわけで本作も楽しんだ。賛否両論な映画であるが、その"否"の方はほとんど話の悲惨さと後味の悪さに対する批判である。なるほど主人公はかなり可哀想である。しかし主人公の周りには悪意の人だらけというわけでもない。徹底的に悪いのはたった一人。むしろ惜しみない友情、愛情を注いでくれる人も身近にちゃんといる。主人公の不幸の源は無知で無防備なことであると私は感じた。一生懸命生きている無垢な人間が無知・無防備ゆえに不幸な道をたどる。そういうことは現実の世界では毎日のように起こっていることだし、かえってフィクションだと思うとすんなり悲劇として見られる。(これがニュース報道だったらさすがの私もどうにかならないのかと真剣に考えていたことだろう。)しかしだからこそせめて映画の中でくらいそんな不幸なものは観たくない、という人は多い。トリアーだってそんなことはわかっている。だからこの映画では、辛い現実に対して、せめてもの夢としてミュージカルが出てくるのである。

話の悲惨さは、楽しいフィクション、または夢←→つらい現実という対比を際立たせるためであろう。現実は辛いから空想の世界に逃避しないとやってられない。だからストーリィが進み現実がどんどんヘビィになるにつれ、ミュージカルシーンもどんどん増える。

私は辛いときにそういう逃避をすることに非常に抵抗を感じるタイプである。空想による逃避は私もするが、それはつまらない現実からの逃避であって、辛い現実からではない。辛くとも大事な状況においては、逃避によって自分の感覚や反射神経が鈍ったり自分の感じたことに嘘がまじるのが嫌なのだ。
空想とはそのように諸刃の刃である。

主人公セルマの空想はとどまるところを知らない。しかしそれを非難する気にはならない。極限まで状況が悪化する中、空想の力を借りざるを得ないほどの恐怖が伝わってくるからだ。そして最後の最後で、セルマは空想の中ではなく、現実に実際の言葉を歌い上げる。この土壇場で自ら歌うことができるなら、ここまで夢の中で歌い続けてきたことにも意味があると思える。「これは最後の歌じゃない」とセルマは歌う。そう歌って死の恐怖すらも克服する。この悲劇も"終わらない映画”となる。

セルマがラスト近くで「病気が遺伝するとわかっていてなぜ子供を生んだ」と聞かれて、「赤ちゃんをこの腕に抱きたかった」と答えるシーン。私はこのやりとりがとても好きだ。移民で、父もいず、手に職もなく、貧しく、生きていくのが容易ではないことは簡単に想像がつく。それでも子供を生もうと思った。息子のためなら自分の身など犠牲にしてもかまわないなんていう覚悟はとうの昔にしていたのだという一種清々しさのようなものを感じる。

死ぬのは怖い。セルマは不幸だ。それでも音楽と息子の存在は最後まで彼女に光を与え続けたのである。それでいいのかという疑問が残らなくもないが、決して後味が悪いとも言いきれないと思うし、そこまでするならそれも一つの解だと素直に思える。

ミュージカルシーンがどれも素晴らしい。歌声は美しく、ダンスやカメラワークもいい。曲も実に凝っていてレベルが高い。が、いまひとつ明るさというか能天気さがないため、現実逃避の美しい空想のはずがややビターな味わいだったりもする。

アメリカの話であるが、映像は全然アメリカに見えない。登場人物の服装などはアメリカ的なのだが、風景の色彩と陰影がどうにもヨーロッパだ。

トリアー作品おなじみの俳優が沢山出ているのが、なんだかほっとする。
カトリーヌ・ドヌーブが格好いい。ミュージカルシーンもあるが、本当に本人が歌っているのだろうか?ビョークもすごくいい。芝居は畑違いのはずであるが、さすが表現者として一流なだけはある。とてもエモーショナル。


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モモ

映画のタイトルから飛んできました☆ ついさっき私もこの映画をみました(´∀`)一般的に鬱映画と言われていますが、私は好きです(´ω`)重いけど[あせあせ(飛び散る汗)]音楽のクオリティの高さにびっくりですよね☆
by モモ (2009-04-20 04:19) 

satoco

私も好きですこの映画。音楽すごくいいですね。

by satoco (2009-04-22 15:30) 

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