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その男、凶暴につき [映画関連]

1989年 北野武監督

私は北野映画のファンではない。「キッズリターン」だけは別格に好きだが、作品によってはやけにたけしのナルシズムを感じすぎてしまって辟易することも多い。久石譲の音楽も私にはウェットすぎる。それでもどの作品もそれなりにおもしろいところがある、とは思っている。

さてたけしの監督デビュー作である本作だが、まだ"世界の北野"なんて言われていないからか、たけし映画にしてはかなりオーソドックスな刑事ものである。もう数回見ているのだが、先日スカパーだかwowowで放送したのでまた観てみた。音楽は久石譲ではなく、サティのグノシエンヌ。映画の雰囲気にとてもよく合っている。

この映画でたけしがやりたかったのは、たぶん暴力の話なのであろう。
もちろん暴力はよくない。しかしたけしはたぶん、暴力というものに何がしか惹かれるものがあるのであろう。そしてその気持ちは私にもわかる。現実世界での暴力は大嫌いだが、フィクションで描かれる暴力にはときに魅力を感じる。

本作で描かれる暴力も、決して認められているものではない。主人公の過剰な暴力性は当然周囲から否定されている。敵対する犯人側にも、その暴力性の過剰さにより自らの立場を危うくしているキャラクタが存在する。この二人、特に葛藤もなく乱暴に振舞っているので人間の暴力性は..というようなテーマには踏み込んでいかない。むしろこの二人がきちんと暴力でコミュニケーションしている点で、やや暴力礼賛的な映画のように思えてしまったりする。
しかし結局、平気で悪いことをする警察官より、凶暴でも正義感がある方がいい、という単純な話の映画でもある。

じっくり丁寧に撮られていて、できるだけリアルに撮ろうという姿勢も感じられる。そういうところはその後のたけし映画と共通している良さだと思う。それでいてナルシズムが前面に出ていないので、北野映画の中ではかなり好きな方。ただしタイトルは芝居がかりすぎてあまりよくないと思う。


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コメント 4

ken

僕は公開当時劇場で観たのですが、暴力描写に辟易としました。
どうやら体質的に「痛い」映画は嫌いなようで、だから「復讐者に憐れみを」
も嫌いなんですけど、このタイトル、当時はすごく気に入ってました。
というのも僕は当時「ビートたけし」としてのこの人と一緒に仕事をしていて
「ああ、この人にはこういう側面もあるんだ」
と知り、今思うとちょっとベタなこのタイトルが新鮮で生々しかったんです。
「3-4X10月」なんかより100倍いいと思います(笑)。
by ken (2006-08-08 14:00) 

satoco

たけしさんと一緒にお仕事してらしたなんて羨ましいです。

映画の中の暴力はものによって辟易してしまうかちゃんと見られるか分かれます。ちゃんと掘り下げているか、逆になんにも考えていないくらいの方が良くて、中途半端にファッション的に扱われるのが一番いたたまれないです。グロテスク描写にも品性がないと嫌だし。って、どんなものが品性があるのかうまく説明できないんですけどね。たけし映画の暴力はあんまりちゃんと掘り下げられてる感じはしないんですが、たけし自身ファッションではなくて暴力に惹かれている部分がありそうなのが窺えるので結構観られちゃいます。

「3-4X10月」は私も好きではないのですが、その割りには結構覚えているシーンがあったりする不思議な映画という印象です。
by satoco (2006-08-08 20:24) 

Sho

この映画は、ずっと気になっていて、ずっと見られなかったものです。
私はバイオレンスシーンが決定的に駄目で、体が硬直するくらい恐くなってしまうのです。でも最近は変わってきて、結構観られるようになったので
この作品もそろそろ手を出そうかな・・と思っていました。
脚本が、大好きな野沢尚だったのも理由の一つです。
暴力に関しては、たけしがインタヴューに答えているのを2度見ました。
1度目では「暴力という(愛情の)表現もある」
2度目では「暴力を描くときは観るものに嫌悪感を与えなくてはいけない。
俺のはちゃんと嫌悪感あるでしょ?」というようなものでした。
前者は納得できませんでしたが、後者はわかるように思いました。

ちなみに私はこのタイトルすごく好きです(笑) 近いうちに観ようと思います。長文失礼しました。
by Sho (2006-08-08 21:15) 

satoco

shoさん、そう、脚本が野沢尚なんですよね。エンドクレジットで知って、驚きました。北野映画はストーリィよりも感覚重視な気がしますが、本作は筋立てがしっかりしていて、さすがだなと思いました。

この映画のバイオレンスシーン、痛そうですよ。下手なハリウッド映画の銃撃戦とか過激なホラー映画の作り物的なバイオレンスシーンより、この映画のビンタ連発シーンの方が痛そうです。ご覧になる際はお気をつけください。
by satoco (2006-08-09 01:04) 

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