SSブログ

ラストサムライ [映画関連]

「ラストサムライ」。「最後の侍」ではない。なぜなら、ここで描かれているのは、侍でも武士でもなく、サムライ、いや、SAMURAIだからだ。

私は表現は自由だと考えているし、フィクションなんだから多少時代考証やら当時の風俗が正しくなくても、許容範囲であればOKだと思っている。ましてや外国人が日本のことを描こうというのだから、描写が多少変でも文句をつける気はない。たとえ横浜港から富士山が大きく見えようとも。

しかし、この映画の作り手は武士が好きで、武士がすばらしいと思って、この映画を作ったはずだ。いや、少なくともそういうポーズはとっている。しかもこの映画のテーマ自体が、失われ行く武士道への賛歌であり、他に描こうとしていることは特にない。であれば、武士に関するエッセンスくらいはきちんと描かないと、映画がスカスカになってしまうのである。

武士の描写で大問題なのは、勝元率いる反乱軍が鉄砲を使わないこと。武士だから鉄砲は使わない?戦国時代から武士は国産の鉄砲を使っている。黒澤明の時代劇にも散々出てくる。政府軍との対比をより明確にするためにそういう設定にしたのかもしれないが、鉄砲NGとしたことで、勝元軍と政府軍の戦いが、勝元軍に勝ち目がまるでないものになってしまった。
主君や使命、信義のためには命を惜しまないのが武士、そうかもしれない。しかしこの映画で、そうまでして武士達が守らなければいけないものが、見えないのだ。もちろん守ろうとしているのは、天皇と日本という国だ。見えないのは、"そうまでして"の部分。太刀をかかげて鉄砲に向かっていくのは、無謀な行動だ。それが死ぬとわかっていてもどうしても突っ込まなければならないのと、他のやりようをしらなくてただ突っ込んでいくのとは大違い。この映画では、そこのところが明確でないため、この捨て身の突進に感動できない。映画の中では武士達が持ち上げられているのだけれど、観ている側に武士の魅力は伝わらない。いくら渡辺謙、真田博之と言った魅力的な役者がすばらしい武士姿を披露してくれていても、勝元軍がいったい何を考えているのかさっぱりである。

この作品の作り手は、武士道をすばらしいと思っているのかもしれない。映画の中でもそのように描いている。しかしそれは、21世紀の現代の視点から見てすばらしいと思っているのではないのが、透けて見えてしまうのだ。たしかに武士の哲学に敬意はあるだろう。しかし「だけど現代人の方が総合的には優れている」という但し書きつき。結局高みから見ているのだ。たとえば武士道というものを研究していて、そこにすごく今日的なものや納得させられるような考え方を見出して、武士道ってすごいな、と思ったのではなく、あんなのは旧時代のものだ、でも旧時代には旧時代のよさがあったんだよね、としか思っていないのだ。

くりかえし言うが、時代考証や風俗が厳密に正しくなくても、そこをとやかく言うきはない。しかしこの武士道に関する”わかってなさ”はこの映画においては、致命的な意味を持ってしまう。武士を描いたはずがSAMURAIを描いたことになってしまったように、映画自体のテーマがかわってしまうのだ。。そのような気分で、日本人同士が殺し合いをする映像は見たくないというのが正直なところ。

渡辺謙演じる勝元は非常に格好良い。知的で、カリスマがあり、武士姿がよく似合う。真田博之もとても印象強く、これでも少しでもリアリティを増すために助言も沢山したのだと聞く。そういった関係者達が悪いとは思わない。むしろこんな脚本でも見られる映画にしたその頑張りには頭が下がる。
殺陣も迫力があってとてもいい。
それだけに、この脚本が残念。

勝元の息子を演じた小山田シンはこの映画がデビューだそうだが、さわやかで格好良く、とても良かった。活動拠点はアメリカで、The Theater of Arts Performing Arts Academyで学んだのだそう。武芸も本当にできるのだそうだ。彼を発見したことが、この映画の一番の収穫。

余談だが、現代人である主人公が、他の現代人からは野蛮な部族と思われている非白人のコミュニティで一人そのコミュニティに独自の文化があることを理解するというのは、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」と同じ構図。「ダンス~」は、それでも恋の相手は"ネイティブ・アメリカンに育てられた白人女性"であったことが根強い人種差別を感じさせて映画を思い切り嘘臭くしていたが、「ラストサムライ」ではきちんと日本人女性が相手。その辺は時世を反映しているように思われる。しかし小雪の美しさを見れば、下手な白人女性では太刀打ちできないのは確かだ。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。