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フラガール [映画関連]

2006年 李相日監督 

「リトル・ダンサー」「ブラス!」「フルモンティ」とイギリス映画では一時期炭鉱閉鎖前夜を舞台にした映画が元気だった。この3つはそれぞれテイストは全く違うのだが登場人物が炭鉱の仕事ではなく、ダンス、音楽、そしてストリップにまい進するがんばりと、背景の経済的やるせなさと家族愛や同士愛が程よく描かれているのは共通しているところ。日本にも炭鉱閉鎖関連のドラマはあるわけで、しかもそれが結構名の知れた娯楽施設「常磐ハワイアンセンター」のオープンと、華やかで可憐なフラガールたちが絡んでいるのだから、映画にしない手はない。しかしこの「フラガール」は、上記3つのイギリス映画と比べると、ぐっとくる感動が大分少ない。

全体に淡々としているのである。
まず、映画が始まった時点で常磐ハワイアンセンターを作ることはもう決まっちゃっているのだが、これが最初は炭鉱の不況にあえいでいるところから始まり、ハワイアンセンターの企画が持ち上がるシーンも描いて、ハワイアンセンターのオープンに情熱を傾ける男を狂言回し風に登場させたら、大分違ったんじゃないだろうか。それから、フラガールたちのがんばりをもっとスポ根風に描いて、炭鉱夫たちの葛藤をもっと切実に描く。そもそも話が時代の過渡期のことなんだから、世代間のギャップ、親子の確執ドラマはそれらを描いていれば自然に描ける。そうしておいて、ラストのダンスでガーンと盛り上げ、ハワイアンセンターのオープン、フラガールの晴れ舞台、親子の和解、といったドラマを一気にカタルシスに持っていってしまえば、大分熱い映画になったんじゃないだろうか。
それともう一つ、登場人物たちの個性もいまひとつ描けていない。だいたいわかるのはフラの先生は勝気でケンカっぱやく、蒼井優は根性がありそう、というくらい。最初は飲んだくれてた先生が生徒の真剣さに触れてちゃんと教えるようになる、というあたり「プリティリーグ」を思い出すが、「プリティリーグ」の女性選手達は個性豊かだったなぁ。

そういうわけでなんだか密度が薄いような感じがしてしまう映画だった。決してテンポが遅すぎるわけではないのだが...感動的なエピソードはいくつかあるが、淡々としているのでぐっと来るとまではいかず。クライマックスのダンスも、女優さんたちは相当がんばったのは以前にメイキングで観たし、それは本当にすごいと思うのだが、映画本編では別のエピソードの映像が挿入されたり、カットが細かかったり顔のアップが多かったりして、ダンスの迫力はそがれてしまっているし。ただ観客の歓声がリアルなのでかろうじてすごさが伝わっては来るが。

メイキングで女優さんたちがフラのレッスンをし習得していく様子を観たが、そちらの方がよほどドラマティックに思えた。

松雪泰子が主役としては陰が薄いなぁと思っていたら、なんのことはない蒼井優の存在感がありすぎるだけだった。だから映画全体のアラも目立つ。もし蒼井優ではなく無名の女優だったら、「この規模の映画だし、ま、そこそこ面白いかな」って思っていたような気がする。それが「いやいやもっと感動作になったはず..」などと色々要求が出てきてしまうのは、蒼井優の存在が大きいからだ。蒼井優はとても魅力的。やはり踊るといい!勢いで「花とアリス」のDVDも引っ張り出してみてしまった。

そうは言ってもそれなりに楽しめる映画ではある。フラは楽しいし、しずちゃんも結構がんばっている。


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ken

最初の7行が完璧。
素晴らしいレビューです。
久々に「やられたなあ」と脱帽しました。
「プリティ・リーグ」の選手層は厚かったですねぇ(笑)。
by ken (2007-07-26 01:17) 

satoco

ありがとうございます! kenさんにほめていただくと、PCの前でガッツポーズしてます。(笑)
私には逆にkenさんが書かれていたようなシネカノンが...というようなビジネスがらみの話が全くできないので、そのあたり(いや他のあたりもですけど)お手上げでございます。
by satoco (2007-07-30 10:12) 

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